[1] 反町茂雄によるテーマ その1
戦後を代表する古書籍商とされる反町茂雄に「蒐集家としての中山正善真柱」という一文があり、ここでは8世紀から現代までの蔵書家を振返っています。
短い文章でここまで包括的なものは他に読んだ事がないので、これを叩き台にさせてもらって始めることにします。以下引用です。
「日本の蒐書の歴史は、古く八世紀のあの芸亭文庫主にまで遡ります。平安朝時代の初めに中国へ渡った、弘法大師をはじめとするかなりの数の僧たちが、彼の地で多くの書物を蒐集して持ち帰った事は、当時の請来目録の類によって窺う事ができます。その以外では、平安末期の藤原信西・藤原頼長の名が知られます。以後には、鎌倉時代では、明恵上人・藤原定家・北条実時及びその一族等々、足利時代では一条兼良・上杉憲実・同憲房等の名がすぐ記憶に浮かびます。江戸時代に入ると、永続する平和と文教の向上発展に伴って、蒐集家の数は大いに増加し、一寸思い出すだけでも、徳川家康・僧天海・桂宮智仁・智忠父子・脇坂八雲軒・松平忠房・前田綱起(松雲公)・徳川光圀から、中期以降では松平定信・水野忠央・屋代弘賢・狩谷?斎・塙保己一・新見正路・浅野梅堂等々。更に大田南畝・馬琴・種彦・豊芥子に至るまで、その数は相当に多くあります。就中、質量を兼ねて、最も重きをなすものは、松雲公と屋代と梅堂とであろうかと愚考します。但し後の二者の蒐集は既に散逸又は亡滅し、信頼に値する目録さえ残存して居りません。幸いにして、最大最優と想像される松雲公の集は、今日完全に近く保存されて居り、目録も印行されてありますから、江戸時代の代表として、ここにはこれを採る事にしましょう。
明治以後には、善本の蒐集家の数は一段と増加致します。青木信寅・黒川家三代・竹添井々・田中光顕・井上頼圀・田中勘兵衛・神田香厳・富岡鉄斎・平出氏三代・大野酒竹・徳富蘇峰・和田維四郎・市島春城・二代目安田善次郎・加賀豊三郎・渡辺 霞亭・池田天鈞居・松井簡治・佐佐木信綱・石井光雄・高木利太・大島景雅・守屋高蔵等々、みな錚々たるコレクターです。外人ではE・サトー、B・チェンバレン、F・ホーレーは、それぞれに立派な蒐集家で、質に於いても優れて居ります。これらのうちで、稀書珍籍の蒐集に於て、質と量を見合わせて、最も見るべきは、私見によれば、大震災の前後を併せた安田善次郎さんと、和田雲村翁で、すぐこれに次ぐは、徳富氏成簀堂文庫でしょう。最盛期のホーレー文庫(昭和二十七、八年頃の)は、或いは直ちに成簀堂の後を追う者かも知れません。ここでは安田氏と和田氏を選び採って、これに先の前田家尊経閣の集を加え、これらの一々と天理の蒐集を試みる事によって、中山正善真柱の位置を考量したいと思います。」
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